連続体とその力学

われわれの周囲に存在する物質の多くは,大きく分けて固体と流体 (液体,気体)に分けられるが,ここでは,固体の力学を扱う.

すでに,剛体の力学において,質点 という概念を学んだ.そこでは,任意の物体は,無限に小さい質点 の集まり,すなわち,質点系と考えた.このことの意味を考えてみよう.

ある瞬間 \(t\)のある物体を考え,その物体の中に,体積 \(\Delta V_0\)の領域を切り出して,その質量を \(\Delta m_0\) とする.このとき,物質の平均的な密度は, \(\Delta m_0/\Delta
V_0\) で与えられる.この領域からさらに小さい領域をとりだして, その体積を体積\(\Delta V_1\)の領域を切り出し,その質量を \(\Delta m_1\)とする.このようにどんどんと,小さい領域を切り 出してゆくとやがてをどんどん小さくしてゆくと果ては,現実には, 物体を構成する原子やそのすき間が無視できない領域では,質量が 不連続に変化し,ある部分では,零,ある部分では非常に大きな値 をとるといったように,その平均的な密度は体積を少し場所によっ て大きく異なり,著しく不安定になる.

Figure 1.3: 領域の切り出し
\begin{figure}\begin{center}
\epsfile{file=a2.eps,height=6cm}\end{center}\end{figure}

したがって,この物体の密度を必要とするときには,ある点の近傍 を考え,その密度 \(\rho\) を,

\begin{displaymath}
\rho = \lim_{n\rightarrow n_c}\frac{\Delta m_n}{\Delta V_n}
\end{displaymath} (1)

とし,無限に小さく \(n\rightarrow \infty\)までとることはでき ず,不安定が生じない程度の領域の限界を表す \(n_c\) までとい うことになる.

連続体力学では,無限に小さい点からなる集合として物体を扱うの で,不安定が生じない程度の領域の限界を表す \(n_c\) までの部 分を無限小まで外挿していることになる.

統計力学では,このような曖昧な表現ではなくより厳密に,粒子が \(N\) 個の同一の粒子からなる平衡系での,ある位置 \(\mbox{\boldmath$r$}\) の時刻 \(t\)での密度は,

\begin{displaymath}
\rho(\mbox{\boldmath$r$}, t)=N\int\int\int f^{(1)}(\mbox{\boldmath$r$}, \mbox{\boldmath$p$}, t)\;dp_x\;dp_y\;dp_z
\end{displaymath} (2)

で与えられる.ここで, \(f^{(1)}(\mbox{\boldmath$r$}, \mbox{\boldmath$p$}, t)\)は,1 体分布関数である.ここでは,これ以上は言及しない.

いずれにしても,無限小の点からなる点の集合を連続体 (continuouse body; continuum)と呼 ぶ.そして,これらの点は密度,応力,ひずみなどの量を持ってい る.個々の点が密度という量をもつ剛体の力学における質点系は, 連続体の一つである.そしてその力学的問題を取り扱う学問を連続体力学 (continuum mechanics)という.

通常の,鉄鋼材料や大規模構造物の強度に関連する力学の問題では, 原子間の距離に比べてはるかに大きいスケールの現象を扱っている ので,連続体とみなすことができるが,最近は,マイクロマシンや 極薄膜の半導体デバイスや極微細な配線などの力学問題に目が向け られて来ており,連続体としての扱いだけでは解決できない問題も 多く,原子分子を離散的に扱う手法が試みられている.



Akihiro Nakatani 2001-06-25