変形体の力学

剛体の力学では,物体の変形は剛体的に,すなわち,回転と並進の 組合せで記述される.一方,変形体の力学では,物体のゆがみ,すなわちそ れ自身の変形をも扱う.

すでに学んだ材料力学における棒の理論は,変形体の力学の中で最 も洗練されたものであり,質点が軸方向力(軸方向応力と断面積)と いう量を持っている一次元の点の集合であると考える.また,はり の理論は,質点が曲げモーメント(断面の最大曲げ応力と断面形状) とせん断力(断面形状)という量を持っているが,やはり一次元の点 の集合体に対する力学である.ここでいう,一次元というのは,そ の点の性質が,一次元の座標値(例えば \(x\))のみの関数で表され ることを意味している.

一方,本来は3次元的な広がりをもっている物体を扱うためには3次 元的な扱いが必要である.そして,それをスマートに表現するため には,ベクトル・テンソル解析が用いられる.

外力が大きくなると変形量は,大きくなるが,この外力の大きさが ある値以下では,外力を除くと,変形量は小さくなり元の状態に戻 る.このような変形を弾性変形(elastic deformation)と呼ぶ.もし,ヒステリシス を描いて元の状態に戻る場合には,サイクルを構成するのでエネル ギーの収支が零ではないので,ふつうは,弾性変形とは言わない.

さて,例として,材料力学の最初で学んだ棒の引張変形を考えてみ よう.ヤング率 \(E=21000\)kgf/mm\(^2\)の材料でできた断面積 \(A=100\)mm\(^2\),棒を\(P=1050\)kgfの力で引張るときの伸びは,

\begin{displaymath}
\epsilon= P/AE = 0.0005
\end{displaymath} (3)

長さ \(l=200\)mmとすると,
\begin{displaymath}
\Delta l= Pl/AE = 200 \times 0.0005 = 0.1{\rm mm}
\end{displaymath} (4)

となる. このように変形前の長さを基準にすると,
\begin{displaymath}
\epsilon= \frac{l+\Delta l - l}{l} = 0.0005
\end{displaymath} (5)

変形後の長さを基準にすると,
\begin{displaymath}
\epsilon= \frac{l+\Delta l - l}{l + \Delta l}= 0.0004998
\end{displaymath} (6)

となる.このように微小変形では変形前の状態を基準にしても変形 後の値を基準にしても大きな差はないことがわかる.金属材料の多 くは,降伏が生じるひずみは1%にも満たず,弾性領域では微小変 形を仮定しても構わない.ここでは,物体の変形は極めて小さいと 仮定したときの理論,すなわち,微小変形理論(infinitesimal theory)を用いても良い.しかしながら,ゴムのような超弾性(hyper elasticity) を示す 材料では,微小変形では不十分であって,いわゆる有限変形 理論(finite deformation theory)を用いなければならない.



Akihiro Nakatani 2001-06-25