変形体の境界値問題を考える上で,力のつりあい方程式とひずみ変 位関係だけでは,式の数が不足し解けないことは先に述べた. つまり,材料の特性,その材料がゴムのように軽い力でよく伸びる のか,また,鋼のように剛性が高いのか,についての情報が必要である. 材料の特性を数学的に表す式を構成式 (constitutive equation) 構成関係 (constitutive relation)という.
さて,材料の特性を考えるために,
ある点のある時刻
における応力
が,
その点の位置におけるひずみ
と温度
と
その履歴(history) により決まるとすることからスタートする.
これは,熱-力学的構成式 (thermo-mechanical constitutive equation) であって,温度を考慮しない力学的構成式 (mechanical constitutive equation) を主として考える.
図5.1は,
金属材料などでよく知られた弾塑性材料の応力ひずみ曲線であるが,
同じひずみ に対して,点Aと点Bの2つの応力状態が
対応することになり,応力は,現在のひずみ
のみ
の関数ではなく,その履歴に依存する.
時間とともに変形が進行する粘弾性材料についてもひずみの履歴がわからないと
応力は規定できない.
これに対して,物体内の任意の点の任意の時刻の応力が,その位置
とその時刻
のひずみのみによって決まる材料を
弾性材料(elastic material)
という.
その構成式は,
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ゴムなどの高分子材料では,図5.2のように 応力ひずみ関係が非線形であっても応力とひずみの関係は1対1である. このような非線形性を材料非線形性(material nonlinearity)といい, このような材料を非線形弾性材料 (nonlinearity elastic material)という.
一方,材料特性が線形で表されるとしても, ひずみの非線形項が無視できない程度の大きな変形が生じているばあいには, 幾何学的非線形性 (geometrical nonlinearity)が現れる.
両者の非線形性を考慮した弾性理論を非線形弾性論非線形弾性論(nonlinear elasticity)という. 多くの金属材料の降伏点以下の応力ひずみ関係は図5.3の様に 線形とみなせるし, 先に述べたように,そのひずみは極わずかで,幾何学的非線形性も無視 できるとすることができる. このような理論を線形弾性論 (linear elasticity)という.
実際の材料ではこのような単純な特性を示すのはごく限られた材料の ごく限られた条件のもとでの応答の場合にすぎない. さらに,一般的なより複雑な応答を示す材料の構成式については, 『固体力学応用』の講義に譲る. しかしながら,線形弾性の考え方は,材料の強度評価を力学的取り扱う ために非常に重要な考え方である.
Akihiro Nakatani 2001-06-25