ベクトルの内積とクロネッカーのデルタ

二つのベクトル $\mbox{\boldmath$x$}$ $\mbox{\boldmath$y$}$の内積(スカラー積)は, $\mbox{\boldmath$x$}\cdot\mbox{\boldmath$y$}$と表記され,両ベクトルのなす角$\theta$ によって,

\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$x$}\cdot\mbox{\boldmath$y$}=\vert\mbox{\boldmath$x$}\vert\vert\mbox{\boldmath$y$}\vert\cos\theta
\end{displaymath} (10)

で定義される. 基底ベクトルの内積,
\begin{displaymath}
\delta_{ij}=\mbox{\boldmath$e$}_i\cdot\mbox{\boldmath$e$}_j
\end{displaymath} (11)

で定義される$\delta_{ij}$は,クロネッカーのデルタ(Kronecker's delta) と呼ばれる. とくに,直角座標 (直交デカルト座標[*]の時,
\begin{displaymath}
\delta_{ij}=\left\{\begin{array}{ccc}
1 & ; & (i = j) \\
0 & ; & (i \ne j)
\end{array}\right.
\end{displaymath} (12)


ポイント』 クロネッカーのデルタに関する以下の事項を確認して,無意識にこ れらの性質が使えるように練習しておこう.

  1. 基底ベクトルの内積で定義される.

  2. その定義から, $\delta_{ij}=\delta_{ji}$なる対称性がある.

  3. $\delta_{ij}$を行列の$i$$j$列の成分とすれば,その行列は, 単位行列である.

  4. $\delta_{ii}=3$である.

  5. $\delta_{ij}$が含まれる項に,もし添字$i$が現われた時,その添 字$i$$j$に置き換えて自ら消えてなくなるはたらきをする.同様 に,$\delta_{ij}$が含まれる項に,添字$j$が現われた時,添字 $j$$i$に置き換えて自ら消えてなくなるはたらきをする(指標の 置き換えの約束).

  6. 指標の置き換えの約束を使えば, $\delta_{ij}\delta_{ij}=\delta_{ii}=3$や, $\delta_{ij}\delta_{jk}=\delta_{ik}$も容易に理解できるので, 覚えるまでもない.

  7. また,クロネッカーデルタの性質を利用すると, あるベクトル $\mbox{\boldmath$x$}$に,基底ベクトル $\mbox{\boldmath$e$}_i$の内積 $\mbox{\boldmath$x$}\cdot\mbox{\boldmath$e$}_i$は,そのベクトルの成分$x_i$が取り出せ る(ベクトル成分取り出しの内積).



Akihiro Nakatani 2001-06-25