簡単な熱応力

Figure 9.1: 任意断面棒

図に示すような剛体壁に固定された長さ，断面積の棒の温度が一様 にだけ上昇する時，棒に発生する応力について考えよう．棒の線膨張係数(coefficient of linear thermal expansion) をとし，棒が剛体壁に固定されていな ければ，棒にはの自由熱膨張(free thermal expansion) が生じる．この自由熱膨 張を打ち消すような仮想的な外力を棒の両端に作用させれば，棒は， で与えられるので，次式が成立する．

$$a\tau_0l + \frac{Pl}{AE} = 0$$ (540)

したがって，応力は，

$$\sigma = \frac{P}{A} = -\alpha E\tau_0$$ (541)

このように，温度変化による自由熱膨張あるいは自由熱収縮が拘束される場合， 物体内に生じる応力を熱応力 (thermal stress) という．

Figure 9.2: 長方形断面棒の熱応力

つぎに，図 (a) に示すように，剛体壁に固定された長さ，高さの長方 形断面棒の下面の温度がだけ一様に上昇し，上面の温度が だけ一様に下降する場合について，棒に発生する熱応力を求めよ う．剛体壁に固定されていなければ，棒は，図 (b) のように円弧状に変形す る．その曲率半径は，

$$\frac{\rho + h}{\rho} = \frac{l + \alpha \tau_0 l}{l}$$ (542)

したがって，

$$\frac{1}{\rho} = \frac{\alpha\tau_0}{h}$$ (543)

この変形を打ち消すような仮想的な曲げモーメントをはりの両端に作用 させれば，棒は剛体壁に固定された場合と同じとなる．この曲げモーメント により生じる棒の曲率は，で与えられるので，次式が成立する．

$$\frac{\alpha\tau_o}{h} + \frac{M}{El} = 0$$ (544)

ただし，は，断面2次モーメントである．したがって，棒に生じる熱応力 は，

$$\sigma = \frac{My}{I} = -\alpha E\tau_0\frac{y}{h}$$ (545)

棒の下面には圧縮応力 ， 上面には引張応力 が生じる．